『社会言語科学』第6巻第2号2004年
伊集院郁子(東京大学大学院)
『社会言語科学』第6巻第2号2004年
大津友美(名古屋大学大学院)
伊集院郁子
日本語母語話者が初対面の会話において、どのようにスピーチスタイルを選択・確立していくかを、母語場面(母語話者との会話)と接触場面(日本語上級レベルの中国、台湾人学習者との会話)の対比において分析した研究である。分析の理論的枠組みを会話分析とBrown & Levinsonのポライトネス理論に求めた。
本論文の優れた特徴は、1)同条件下における母語場面と接触場面の初対面会話を比較し日本語母語話者の言語行動の特質を浮き彫りにしていること、2)スピーチレベルが時間軸の流れでどのように変化していくかをマクロな視点で分析していること、3)フォローアップインタビューを用いデータを話者の場面意識、言語操作意識と照らし合わせながら読み解いていることであろう。
母語話者がもつ共通の規範意識や非母語話者へのステレオタイプ的な見方などから、母語場面と接触場面ではスピーチスタイルに相違があることを、データの数量的な分析と質的な分析を相補的に利用することにより明らかにしている。事例研究の枠組みにとどまらず、分析をまとめてスピーチスタイル選択のメカニズムとしてモデル化している点も高く評価された。データ収集も周到であり、方法論、分析ともに優れている。今後のスピーチスタイルの選択・確立に関する研究の新たな発展を予見させる優れた論文である。
大津友美
親しい友人同士の雑談の中で、些細なことで言い合ったりわざと反論したりしている状況を、「遊びとしての対立」場面として捉え、それが相互行為的協力により成立し維持される過程を分析している。Brown& Levinsonがポジティブ・ポライトネスのひとつとしてあげている「冗談」が、会話の中でどのように実現され、親密な関係作りにどのように貢献しているかを、ミクロな質的データ分析により解明することに成功している。
分析の枠組みとして、Batesonのフレームの概念を援用し、「これは遊びだ」というメタメッセージが、会話参加者の間で発せられると、それが〈発話の繰り返し〉〈韻律の操作〉〈感動詞〉、〈スタイルスイッチング〉、〈笑い〉などのさまざまな言語・非言語的ディバイスにより、相互協力的に維持され展開されていくありさまを、会話分析の手法を使って浮き彫りにしている。
日常の看過されがちな言語行為に焦点を当て、対人関係維持にはマイナスと考えられがちな「対立」を「遊び」として捉えたユニークな発想、「対立」が親しい友人間の対人関係の動機や相互作用の展開に寄与するプロセスを丁寧に読み解いていった実証性が高く評価された。議論は簡潔、明快で無駄がない。分析方法、分析枠組みに社会学、人類学、言語学の調和のとれた融合がみられ、萌芽賞にふさわしい論文であると判断された。