『社会言語科学』第7巻第2号2005年
坊農 真弓(神戸大学大学院/ATRメディア情報科学研究所)
片桐 恭弘(ATRメディア情報科学研究所/神戸大学大学院)
『社会言語科学』第7巻第2号2005年
オストハイダ・テーヤ(筑波大学)
該当なし
坊農 真弓・片桐 恭弘
対面コミュニケーションの場では言語表現のほかにジェスチャー、視線などの非言語表現が重要な役割を果たすが、それらが話し手と聞き手相互の間でどのように関連しながら会話が進行しているかを検討した意欲的な論文である。話し手の視点として従来から研究されてきた叙述的視点(登場人物の視点と観察者の視点)に加え、相互行為的視点の存在を導入し、コミュニケーションを単なる情報伝達行為としてではなく、話し手と聞き手による相互的なコミュニケーション行為として重層的にとらえることに成功して いる。
会話データの定性的分析(分析1:アニメ視聴内容を聞き手に話す会話の分析)および定量的分析(分析2:ポスター発表者が来訪者に内容を説明し質疑応答を行なう様子の分析)を通して、ジェスチャー、視線配布と発話の開始、継続、終了との相互関連性を豊富なデータを用いて実証している。さらに、叙述的側面(対象に志向した箇所)と相互行為的側面(他者に志向した箇所)はジェスチャー構造内に共起するものとし、日本語の文構造におけるモダリティー表現の分析とも関連づけるなど、言語行動を包括的に とらえるアプローチはダイナミックであり、今後のさらなる展開が期待される。
発想、データ採取方法、処理方法など独創的かつ緻密であり、コミュニケーション関連の諸分野に多くの示唆を与える完成度の高い論文であると判断された。
オストハイダ・テーヤ
外国人と障害者に対して共通に現れる第三者返答(話し手が,話しかけてきた相手の外見的特徴などに基づき、話し相手を無視してそばにいる第三者に返答する現象)という不自然かつ当事者に違和感を与えるコミュニケーション現象に着目し、その原因や背景となる意識を追及した極めて社会的貢献度の高い論文である。
これまで外国人や障害者などが経験する事例として報告されてきた第三者返答を、5種類の意識調査、インタビュー、実験による多面的なデータとして採取・検討し、現象の構造、原因に詳細な分析を加え、実証的かつ広い視野に立った研究として結実させている。分析にはアコモデーション理論を援用し、この現象を言語外的条件による過剰適応の中に位置づけた。第三者返答の主な原因として、外国人の言語能力に関する経験やステレオタイプ、身体障害者に対する知識不足から生じる障害の性質についての誤解があ ることを指摘している。
本研究は、均質性や画一性が比較的高いとされる社会において、その社会構成員が異質なものに対して無自覚にとりがちな言語行動に鋭く切り込みつつ、客観的分析のメスを入れている。その現代的テーマとユニークな分析の視点は、高齢者など社会的弱者一般に対する社会現象解明に応用できるものであり、ウェルフェア・リングイスティックスの観点からも高く評価できる。先行研究への目配りも十分であり、分野を超えた研究領域に貢献できる研究として今後の発展が大いに期待される。