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2013年度(第13回 受賞者)

第13回 徳川宗賢賞受賞論文(2013年度)

優秀賞

  • ・「対面説得事態における対人コミュニケーション・チャネルに関する研究―チャネルの使用とその効果」『社会言語科学』第15巻 第1号 73頁~88頁
    横山ひとみ(大阪大学大学院人間科学研究科/日本学術振興会)
    大坊郁夫(大阪大学大学院人間科学研究科)
     ※横山ひとみ氏は,現在,東京農工大学大学院工学研究院先端情報科学部門に所属.
     ※大坊郁夫氏は,現在,東京未来大学モチベーション行動科学部に所属.

萌芽賞

  • ・「中国貴州省の掛け合い歌「山歌」におけるコードスイッチング―言語交替と文化復興のはざまで―」『社会言語科学』第15巻 第2号 58頁~65頁
    梶丸 岳(国立民族学博物館)

受賞理由

優秀賞

  • ・「対面説得事態における対人コミュニケーション・チャネルに関する研究―チャネルの使用とその効果」横山ひとみ・大坊郁夫
     コミュニケーションの当事者が,相手を説得しようとする場合にどのような言語的/非言語的資源を用いるのかは,さまざまな分野の研究者が取り組んできたテーマである.本論文は,従来の社会心理的な説得研究においては扱われてこなかった,対面環境におけるメッセージの「受容」と「生成」という,双方向の説得行動にまで分析の射程を広げた点で他と一線を画す.また,刻々と変化するコミュニケーション行動を実験的な手法により検証する試みには「観察者のパラドクス」が常に懸念されるが,それを払拭するための緻密な条件設定を行い,説得力のある仮説検証の方法を採用した点は高く評価できる.具体的には,ある話題に対する態度や関心の異なる参加者ペアを緻密な事前措置によって選定し,説得を試みるための自然な発話を抽出する環境を巧みに設定した.それにより,「連帯性を示す」,「意見を与える/求める」,「不同意を示す」といった言語行動と,ジェスチャー,アダプター(身体部位同士の接触),視線,笑顔,うなずきといった非言語行動が,聞き手の態度変化や親しみやすさのような対人印象に及ぼす影響を詳細に検討している.コミュニケーション・チャネルが及ぼす影響は今後のさらなる課題ではあるものの,新たな研究への足掛かりと関連分野への応用という可能性を内包している.これは本学会が標榜するインターディシプリナリーな姿勢に合致するものであり,この点でも優秀賞にふさわしいと判断された.

萌芽賞

  • ・「中国貴州省の掛け合い歌「山歌」におけるコードスイッチング―言語交替と文化復興のはざまで―」梶丸 岳
     「プイ族」は中国貴州省を中心に暮らす少数民族であるが,中国語(普通話)とプイ語を併用している.彼らは祝祭の席などで,独特の旋律に乗せて歌う「山歌」の掛け合いをする習慣をもつが,山歌には,中国語による「漢歌」とプイ語による「プイ歌」がある.本論考は,プイ族独自の正月を祝う「布依年節」と結婚式の行事を事例とし,山歌における中国語とプイ語のコードスイッチングの実態を詳細に考察したものである.
     筆者は5年以上にわたって現地調査を実施する中で,この貴重で極めて興味深い事例を分析した.これまで移民社会や旧植民地などの多言語状況におけるコードスイッチングの分析は多々見られたが,中国少数民族におけるコードスイッチングの分析は,日本人の手によるものでは比較的少数で,しかも特殊な伝統芸能を題材にしたものはほとんどなかったと言ってよい.
     本論からは,文化的・経済的要請等から,普通話へのモノリンガル化が進行する中にあって,プイ族の人々が「母語」を継承しようと努力している様や世代交代等による諸課題を垣間見ることができる.その際,交替やコードスイッチングが,必ずしも言語現象全般に一様に並行して生じるわけではなく,言語行動のジャンルによって異なる形で生じること,さらにジャンルに内包される意識や価値観にも影響されることを本論考は明らかにした.
     本論文は「ショートノート」として掲載されたものであるが,その限られた紙幅の中で,今後の言語接触,コードスイッチングに関わる研究の展開に,新たな視座を提供した論考であり,徳川賞萌芽賞に十分値するものとして評価できる.

徳川賞を受賞して

  • ・横山ひとみ・大坊郁夫
    徳川宗賢賞の受賞を大変嬉しく思います.どうも有難うございました.この賞は本論文にご尽力いただいた多くの皆様のご協力のおかげです.実験参加者の募集へのご協力,調査や実験へのご参加,実験準備のお手伝い,データのコーディング,論文へのご助言等々,全ての皆様のご協力なしには本論文は完成に至らなかったと思います.この場を借りて皆様にお礼申し上げます.
    説得という行為は,互いの立場の違いが表面化し他者との関係を悪化させる可能性を孕んでいます.そのような状況でも,相手に自分自身の考えを表明し,効果的に説得しなければならない場合が日常のコミュニケーション場面では多くあるかと思います,そのために,人がどのような行動をとっているのか,どうすれば効果的に説得できるのかを知りたいところです.本論文は,この疑問にこたえようとしたものです.今後に残された課題は多くありますが,この受賞を励みに今後も研究に邁進していきたいと思います.
  • ・梶丸 岳
    もともと大学院での私の専門は文化人類学です.グイ・ブッシュマンの独創的な会話研究をしていた菅原和孝先生のもとで,「人と人との変わった形態のコミュニケーションについて研究したい」と思って始めたのが,中国貴州省の掛け合い歌の研究でした.その後研究を進めるにつれて言語学的な視点も重要だと感じ,社会言語学や語用論,認知言語学や会話分析などの勉強を始めました.このたび栄えある賞をいただくことになった論文はいわば,指導教員の指導領域からふらふらとさまよい出た結果生まれた「わき芽」のようなものです.社会言語科学会ではこれまで何度も発表させていただいてきたものの,私に社会言語学の師はいないので,私の研究が社会言語学プロパーの方々から見てどう評価いただけるものなのかずっと分かりませんでした.それだけに今回の受賞は諸先生方から間違ってはいないと言っていただけたようで,たいへん嬉しく思います.
    ここ数年は中国から離れ日本やラオスの掛け合い歌の調査を重点的に行っていますが,今回認めていただけた「わき芽」がきちんと太い枝に育つよう,これからも学際的研究に邁進してまいります.